ギリシャ文字でつまずかないために:住宅の省エネ計算に出てくる記号の整理
はじめに
住宅の省エネ計算には、たくさんの専門用語や見慣れない記号が出てきます。特に、ギリシャ文字が多く登場し、読み方や意味がわからず戸惑ってしまうことも多いのではないでしょうか。
この記事では、住宅の外皮性能(建物の断熱性能など)を評価する「標準計算ルート」において使用されるギリシャ文字や専門用語を、できるだけわかりやすく整理してご紹介します。
※参考資料:国土交通省「住宅の省エネルギー基準と評価方法2024」
省エネ計算の概要
住宅と非住宅では、省エネ性能の評価方法が異なります。
- 非住宅(事務所・ホテル等・病院等・店舗等・学校等・飲食店・集会所等・工場):WEBプログラムを使って評価します。
- 住宅:評価方法が複数あります。
住宅の省エネ計算では、特に「外皮性能(断熱性能など)」の標準計算が複雑になっています。設備については、WEBプログラムまたは仕様基準によって評価されます。
主なギリシャ文字とその意味
● 外皮平均熱貫流率 UA(ユー・エー)
- 建物全体の断熱性能を示す指標です。
- 単位:W/(㎡・K)
- 計算式:外皮熱損失量 q [W/K] ÷ 外皮面積の合計 ΣA [㎡]
● ηAC(イータ・エー・シー)・ηAH(イータ・エー・エイチ)
- ηAC:冷房期(夏)の平均日射熱取得率
- ηAH:暖房期(冬)の平均日射熱取得率
これらの値は、地域によって外皮性能基準の判定には使わない場合もありますが、一次エネルギー消費量の計算には必要なため、どちらにしても計算する必要があります。
熱損失量の考え方と記号の意味
建物の部位ごとの熱損失量は以下のように求められます。(外皮熱損失量q [W/K]は以下の合計ですが、外皮面積の合計 ΣA [㎡]では基礎の土間床面積を加え、周長は使いません。)
- 屋根・天井、外壁・基礎壁、開口部(ドア・窓)、床などの部分: A × U × H
- 基礎の周囲部分: L × Ψ × H
ここで使われる記号の意味は次のとおりです:
- A:部位の面積(㎡)
- L : 基礎の周長 (m)
- U(ユー):熱貫流率 [W/(㎡・K)] → 材料の熱損失
- Ψ(プサイ):線熱貫流率 [W/(m・K)] → 熱橋部分(ここでは基礎)の熱損失
- H:温度差係数(外気に接する部分は1.0、それ以外は0.7)
熱貫流率 U の求め方
各部位の熱貫流率 U は、材料の熱の通しやすさ(熱伝導率)や厚さに基づいて計算されます。
- 各層の熱抵抗 R [㎡・K/W] = 厚さ d [m] ÷ 熱伝導率 λ(ラムダ) [W/(m・K)]
- 部位の合計熱抵抗 Rt の逆数が熱貫流率 U になります。U=1÷Rt
- Rt= 外気側の表面熱伝達抵抗Ro + 材料ごとの熱抵抗(空気層も含む) + 室内側の表面熱伝達抵抗Ri
ηAC(冷房期)の計算方法
ηAC[単位なし]= 冷房期の日射熱取得量 mc [W/(W/㎡)] ÷ 外皮面積の合計 ΣA [㎡] × 100
外皮面積 ΣA に含まれるもの:
- 屋根・天井
- 外壁・基礎壁(方位別)
- 開口部(ドア・窓)(方位別)
- 床・基礎・土間床
冷房期の日射熱取得量 mc の計算:
mc = Σ(A × ηC × νC)
- A:部位の面積(㎡)
- ηC:冷房期の日射熱取得率
- νC(ニュー・シー):方位係数(太陽の向きによる違い)
ηC の求め方(屋根・天井、外壁・基礎壁、ドア)
ηC = 0.034 × U × fa × fshc
- fa:外気側表面に応じた係数(通常1。JISに定める日射吸収率、日射反射率の値にて計算しない場合)
- fshc:日除け効果係数(専用プログラムを使用するか、1とする)
方位係数 νC(ニュー・シー)
- 屋根・天井の上面は1、下面は0とする
- 壁・開口部は、地域ごとに定められた8方位(45度単位)の係数を使う 参考:方位係数
- 暖房期には異なる値(νH)を使います
ηAH(暖房期)の計算方法
ηAH の基本的な計算方法は ηAC と同じですが、以下の点が異なります。
- 取得日射熱補正係数 fH:暖房期用に 0.51 を使用(冷房期は 0.93)
- 方位係数 νH:暖房期用の係数を使用
窓の日射熱取得率 η の計算方法
η = ηd × fc
- ηd:窓の垂直面日射熱取得率
- fc:取得日射熱補正係数( イ)定数を用いる場合)
- 冷房期:fc = 0.93
- 暖房期:fH = 0.51
まとめ
住宅の省エネ計算には、ギリシャ文字を含む専門的な記号が多数登場します。一見とっつきにくいですが、それぞれの記号や数式には意味があり、慣れてしまえば理解しやすくなります。
特に ηAC や ηAH といった日射熱取得率の計算では、単純な数式の繰り返しであり、方位や日除け効果などを反映した現実的な評価が行われています。
材料の熱伝導率や窓・ドア等の熱貫流率はデータベースかメーカーのカタログ等から求めます。窓の日射熱取得率は計算で求めるか、メーカーのカタログ等から求めます。参考:窓の日射熱取得率
今回紹介したギリシャ文字の一部:
- η(イータ):日射熱取得率の指標
- λ(ラムダ):材料の熱の通しやすさ(熱伝導率)
- Ψ(プサイ):熱橋部の熱の逃げやすさ(線熱貫流率)
- ν(ニュー):太陽の方位による補正(方位係数)
これらを押さえておくことで、外皮性能や省エネ計算への理解が深まり、家づくりや設計に役立てることができます。