屋根で発電し、山でも風を捕まえる──
私たち設計者が“形”を生み出すとき、その向こう側には必ずエネルギーの物語がある。
本稿では発電方式を俯瞰したうえで、建築の省エネの代名詞『太陽光』と、地元・加美町で揺れた『風力』のリアルを掘り下げる。
建築設計において、エネルギーは“見えない基礎構造”の一部といっても過言ではありません。特に省エネ化が義務化されつつある昨今、設計者がエネルギーの生成や使用のプロセスを理解することは欠かせません。本稿では、発電方式を建築・工作物の視点で俯瞰した上で、建築ともっとも密接に関係する太陽光発電と、地元・加美町でも議論となった風力発電について掘り下げていきます。
現代における主要な発電方式と、それに関連する建築/構造物の例を以下に示します。
発電方式 | 関連する建築/工作物 |
---|---|
火力発電 | ボイラー建屋、煙突、タービン建屋、変電所 |
原子力発電 | 原子炉建屋(格納容器)、冷却塔、使用済み燃料保管施設 |
水力発電 | ダム、取水口、水路、発電所建屋 |
地熱発電 | 蒸気分離器、熱交換設備、地熱井建屋 |
バイオマス発電 | 燃料供給倉庫、燃焼炉、煙突、制御棟 |
太陽光発電 | 太陽光パネル、架台、パワーコンディショナ、BIPV対応外装 |
風力発電 | 風車(ナセル・ブレード)、タワー、基礎、メンテナンス用小屋 |
こうした構造物は単なる機械の“容れ物”ではなく、景観・環境・法律との接点を多く持ち、設計者が意識せざるを得ない存在となっています。
太陽光発電は、建築の省エネルギー化を実現するうえで最も普及した方式です。屋根やカーポートに設置するのが一般的ですが、近年では外装材と一体化した BIPV(建材一体型太陽光発電) も登場し、意匠性と発電の両立が図られています。
太陽光発電は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する技術です。太陽光パネル(モジュール)は、シリコンなどの半導体材料から構成されており、光が当たると電子が移動し、直流電流が発生します。これをパワーコンディショナによって交流電流に変換し、建物内の電気設備や送電網へと供給されます。
設計段階での配慮が、維持管理コストやトラブル回避に直結します。ZEB(ゼロエネルギービル)の達成にも不可欠です。
風力発電は、特に広大な用地と風況条件が揃う地方において注目されてきました。加美町でも数年前、大規模な風力発電事業が計画されていましたが、景観や騒音、住民合意の問題から途中で中止となりました。
風力発電は、風の運動エネルギーを回転運動に変え、それを電気エネルギーに変換する方式です。ブレード(羽根)が風を受けて回転し、その回転軸が増速機と発電機につながっています。得られた電気は変電設備を通じて系統に供給されます。なお、近年はギアレス(ダイレクトドライブ)方式も普及しつつあります。
セルバンテスの『ドン・キホーテ』に登場する風車は、小麦粉などの粉を挽くための風動力機械でした。これは風の力で羽根を回し、歯車やシャフトを介して石臼を回転させる「機械仕掛け」で、電気とは無関係です。対して現代の風力発電風車は、高さ数十メートルのタワー上に設置され、電子的な制御装置と高効率の発電装置を備えています。つまり、風景上は似ていても、目的も内部構造もまったく異なる「別物」なのです。
現在も、薬来山方面に数基の風車が設置されており、晴れた夜には航空障害灯が回転とともに点滅するのが見えます。これらの風車は、工業的要素である一方、ある種の“風景の一部”としても存在感を放っています。
設計はハードの積み重ねですが、地域に根ざした“ソフト”の調整力も同じくらい重要なのです。
建築は、単にエネルギーを使う“消費者”から、エネルギーを創る・溜める・見せる“発信者”へと変わりつつあります。
太陽光と風力。建築におけるこの二つのエネルギーは、いずれも「設計」によって未来の風景を形づくる力を持っています。
次回は、地元・加美町にある代表的なダムのひとつ「漆沢(うるしざわ)ダム」を題材に、ダムとその建造物、そして水力発電のしくみや、防災・治水などを含めたダムの役割について取り上げる予定です。また、水の力を直接利用する「水車」についても、その歴史的意義や現代の応用とあわせて紹介していきます。