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排煙計算とは?建築基準法に基づく基本事項と免除規定の解説

window curtain open wide

排煙計算とは ― 基本的事項の解説

建築設計において、採光・換気・排煙は「居室の基本性能」として欠かせない要素です。特に排煙については、火災時に避難経路や居住者の安全に直結するため、建築基準法で厳密に規定されています。本記事では、排煙計算の基本事項を整理します。


排煙設備の法的根拠

建築基準法施行令第五章「避難施設等」第三節、第126条の2には「排煙設備」について定められています。

1.法別表第一(い)欄(一)項から(四)項までに掲げる用途に供する特殊建築物で延べ面積が五百平方メートルを超えるもの
2.階数が三以上で延べ面積が五百平方メートルを超える建築物
3.第百十六条の二第一項第二号に該当する窓その他の開口部を有しない居室
4.延べ面積が千平方メートルを超える建築物の居室で、その床面積が二百平方メートルを超えるもの
には、排煙設備を設けなければならない。

(※ただし設置免除の条件も条文に規定あり)

無窓居室の定義

ここで重要なのが三番目の「窓その他の開口部を有しない居室」です。

開放できる部分(天井又は天井から下方八十センチメートル以内の距離にある部分に限る。)の面積の合計が、当該居室の床面積の五十分の一以上のもの

これを満たさない場合、その居室は「排煙無窓居室」となります。住宅設計において「排煙計算」とは、この 1/50 の面積要件を確認する作業を指します。

告示による緩和

住宅や長屋については告示により緩和規定が設けられています。

長屋・戸建住宅の場合

告示第1436号-4-イより、

階数が二以下で、延べ面積が二百平方メートル以下の住宅又は床面積の合計が二百平方メートル以下の長屋の住戸の居室で、当該居室の床面積の二十分の一以上の換気上有効な窓その他の開口部を有するもの

この場合、換気計算を満たせば排煙計算は免除されます。

共同住宅の場合(令126の2-1-1)

法別表第一(い)欄(二)項に掲げる特殊建築物のうち、準耐火構造の床や壁で区画され、床面積が100㎡(共同住宅の住戸は200㎡)以内の場合には免除されるケースがあります。

共同住宅の場合は告示と違い、 換気計算がクリアしていても自動的に排煙免除にはならない 点に注意が必要です。


排煙無窓居室と注意点

告示で排煙設備が免除されても、天井下方80cm以内で床面積の1/50以上の開口を確保できない場合は「排煙無窓居室」となります。この場合に注意しなければならないのが以下です。

  • 敷地内通路の確保(建築基準法第35条、第128条)

  • 内装制限(建築基準法第35条の2、第128条の3の2)


敷地内通路の規定

建築基準法第35条では次のように定めています。

(特殊建築物等の避難及び消火に関する技術的基準)
第三十五条 別表第一(い)欄(一)項から(四)項までに掲げる用途に供する特殊建築物、階数が三以上である建築物、政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物又は延べ面積(同一敷地内に二以上の建築物がある場合においては、その延べ面積の合計)が千平方メートルをこえる建築物については、廊下、階段、出入口その他の避難施設、消火栓せん、スプリンクラー、貯水槽そうその他の消火設備、排煙設備、非常用の照明装置及び進入口並びに敷地内の避難上及び消火上必要な通路は、政令で定める技術的基準に従つて、避難上及び消火上支障がないようにしなければならない。

また、第128条では通路幅員について具体的に規定しています。

(敷地内の通路)
第百二十八条 敷地内には、第百二十三条第二項の屋外に設ける避難階段及び第百二十五条第一項の出口から道又は公園、広場その他の空地に通ずる幅員が一・五メートル(階数が三以下で延べ面積が二百平方メートル未満の建築物の敷地内にあつては、九十センチメートル)以上の通路を設けなければならない。


内装制限の規定

建築基準法第35条の2では次のように規定されています。

(特殊建築物等の内装)
第三十五条の二 別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物、階数が三以上である建築物、政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物、延べ面積が千平方メートルをこえる建築物又は建築物の調理室、浴室その他の室でかまど、こんろその他火を使用する設備若しくは器具を設けたものは、政令で定めるものを除き、政令で定める技術的基準に従つて、その壁及び天井(天井のない場合においては、屋根)の室内に面する部分の仕上げを防火上支障がないようにしなければならない。

さらに第128条の3の2では、床面積が50㎡を超える排煙上の無窓居室について内装制限が課されます。


まとめ

  • 居室の採光・換気・排煙は建築設計の基本中の基本。

  • 住宅や長屋では告示により排煙計算が免除される場合もあるが、「1/50規定」を満たさないと排煙無窓居室となる。

  • 無窓居室では 敷地内通路の確保内装制限 が追加で課せられる。

  • 設計時は、換気計算とあわせて必ず排煙計算も確認し、免除条件や通路幅員、居室の床面積などを総合的にチェックすることが重要。


👉 設計実務では「免除規定があるから大丈夫」と思い込まず、条文の要件を一つひとつ確かめることが安全な建築につながります。