モスクと建築基準法の関係
「モスク=寺院・教会だから、特殊建築物ではないのでは?」という疑問があります。実は寺院・教会は建築基準法上、「特殊建築物」ではありません。そのため床面積が200㎡を超えても用途変更の確認申請は不要であるように見えます(ただし消防の使用開始届等の手続きは規模によって必要)。
宮城県の見解では、礼拝室(客席部分)の床面積が200㎡以上の場合、建築基準法上の**「集会場(法別表第一(1)項)」**に該当するとしています。集会場は特殊建築物に当たるため、そのような大きなモスクに改装する場合は用途変更の確認申請が必要になるのです。
「宮城県建築基準」29 「寺院、教会など」、「地区集会所」の用途の用語の定義及びその取り扱い(H19)
さらに、客席に相当する部分(固定席がなく畳やカーペットの部屋ならその部屋全体)が200㎡以上になる場合、建物は耐火構造建築物以上など一定の防火性能を持つ構造にしなければなりません。これは新築でモスクを建てる場合も同様です。
モスクは「ただの礼拝室」じゃない
次にモスクの役割についてです。たとえば、モスクではこんなことが行われます:
- 1日5回の礼拝(サラート) – 毎日の礼拝を行う場所です。
- 金曜の集団礼拝(ジュムア) – 毎週金曜日のお昼頃に行われる大事な礼拝で、100人規模の人々が集まることもあります。
- 教育の場 – 子ども向けのクルアーン教室や、大人向けの宗教勉強会など、学びの場としての機能があります。
- 社会的な行事・交流 – 結婚式や葬儀、ラマダーン(月例断食)明けの食事会(イフタール)など、コミュニティの行事が開催されます。
- 福祉・支援 – 地域のムスリム同士で困っている人を助けたり、経済的・法律的な相談に乗ったりと、支援センター的な役割も担います。
モスク設計で押さえておきたいポイント
- ウドゥ(Wudu)用の洗浄スペース: ムスリムは礼拝の前に必ず手や顔、足を洗って清めます。この儀式的な洗浄をウドゥと呼びますが、日本の普通のトイレ設備では対応しにくいです。床や服が濡れない工夫をした専用の洗い場や水場の設置が理想です。
- 男女別の動線と礼拝スペース: モスクでは通常、男女が別々の場所で礼拝します。同じホールであってもパーテーションで仕切ったり、建物内で男性用フロア・女性用フロアに分けたりします。そのため、男性用入口と女性用入口を分けたり、内部で行き来する動線を工夫したりする必要があります。
- メッカの方向(キブラ)の確保: モスクでは礼拝の際、みんなが聖地メッカの方向(キブラ)を向きます。設計上、礼拝スペースは必ずキブラの方角に正面を向く形で配置しなければなりません。この方角設定はモスク設計の絶対条件です。
- 音響設計: モスクでは礼拝の呼びかけであるアザーンや、礼拝中の説教(フットバ)など、人々に声を届ける場面があります。声が反響して聞こえにくい構造では困るので、音がしっかり届くような空間設計や音響設備も重要です。せっかく集まっても声が聞こえなければ意味がないですから、音の通りはガチで重要です。
- 靴を脱ぐための動線: モスクでは礼拝の際に靴を脱ぎます。入口付近に大量の靴を収納できる靴箱を用意したり、スムーズに靴を脱ぎ履きできるスペースを確保したりと、玄関まわりの計画も日本の建物以上に気を遣います。靴を脱ぐ場所と履いて歩く場所を明確にゾーニングする必要があります。
- 多言語のサイン: モスクには海外出身の方も多く訪れます。案内表示や張り紙などはアラビア語・英語・日本語で表記するのが基本です。できればウルドゥー語やインドネシア語などコミュニティの言語にも対応できると親切です。多言語対応はモスク運営のうえでマストなポイントです。
🕌 イスラムセンターとは何か?
イスラムセンターとは地域のイスラム教徒のための拠点施設のことです。具体的には次のような役割を果たしています:
- 礼拝の場所提供: 日々の礼拝や金曜礼拝(ジュムア)を行うモスクとしての機能が中心です。
- 宗教行事・イベント開催: ラマダーン(月斎)の期間の行事や、断食明けの大祭(イード)のイベント、ハラールフードの斡旋などを行います。
- ハラールガイドラインの提供: ムスリムが安心して生活できるよう、食事のハラール(イスラム法で許されたもの)に関する情報提供や、ハラール認証のサポートなども行われます。
- 教育活動: 子ども向けのクルアーン教室やイスラム教義の勉強会、大人のためのアラビア語教室など、教育的プログラムも開催されています。
- 地域への啓発・交流: 非ムスリム(イスラム教徒でない人)にイスラム文化を知ってもらうための見学会や講演、近隣住民との交流イベントなど、架け橋となる活動も担っています。「イスラム文化を広く知ってもらう」という広報的な役割ですね。
- コミュニティ支援: ムスリム同士の結婚相談、亡くなった方の葬儀手配、生活や法律相談まで、生活全般のサポートをするケースもあります。まさに困ったときに頼れる地域の相談窓口です。
日本国内の主なイスラムセンター
- 日本イスラム文化センター(東京・渋谷区): 東京都心にある老舗のイスラムセンター。イスラム関連書籍の翻訳・出版、改宗の手続きサポートなども行っており、非常に公式色の強いセンターです。
- 関西イスラミック文化センター(大阪府): 大阪にあるイスラム文化センターで、関西在住のムスリムの活動拠点になっています。
- 新潟イスラムセンター(新潟県新潟市): 新潟市にあるイスラムセンター。実は元大学施設か会社の建物を転用したという話もあります。雪深い新潟でムスリムたちの集う場所となっています。
- 仙台イスラム文化センター(宮城県仙台市): 東北地方でも仙台市にこうしたイスラム文化センターが設立されており、留学生や在住者の交流の場になっています。
- 名古屋モスク(愛知県名古屋市): 名称はモスクですが、実質「名古屋イスラムセンター」として機能しています。大きなドームとミナレットが特徴で、地域のランドマークにもなっています。
モスクの具体的な事例紹介
- 石巻モスク(宮城県石巻市): 2023年に宮城県石巻市で完成したモスクです。漁業の町で働く外国人技能実習生など、地域のイスラム教徒にとって初めての礼拝拠点となりました。「イスラム教徒の心の拠り所に」と地元メディアでも紹介された、石巻地方初のモスクです。khb-tv:イスラム教徒の心の拠り所に 宮城・石巻市にモスクが完成
- 津島アヤソフィヤ・ジャーミィ(愛知県津島市): 2022年3月、愛知県津島市のトルコ人コミュニティのために新設されたモスクです。なんと元パチンコ店の建物を改装して作られました(参政党の議員ブログでも「元パチンコ店を改装して作られた」と紹介されています)。近隣に別のモスクがある場所で、約170mしか離れていません。この津島アヤソフィヤ・ジャーミィの建設にはトルコ政府が資金面で支援したともされ、在日トルコ人の新たな心の拠り所となっています。
- ザ・ジャパン・モスク(愛知県津島市): 上記津島市のもう一つのモスク。正式名称は「ベイトゥルアハド ザ・ジャパン・モスク」で、日本アハマディア・ムスリム協会の拠点です。2015年に名古屋市から津島市へ本部移転する際に、2階建ての元パチンコ店跡を購入・改装して設立されました(こちらも参政党の議員ブログで紹介されています)。一度に500人以上収容できる国内有数の大規模モスクで、東海地区最大級と言われています。
- ダールッサラーム・モスク(群馬県伊勢崎市): 群馬県伊勢崎市の境町地区にあるモスクです。最寄りの境町駅から歩いて2分ほどの場所に位置しており、もともとパチンコ店の建物を買い取って改造したものだそうです。建物は2階建てで、1階部分を礼拝ホールとして使用しています(旅行記サイトの4travel.jpでも「駅から2分、元パチンコ店を改造」と書かれていました)。
モスク用語集(基礎編)
- ミフラーブ(Mihrab): モスク内部で、礼拝の方向(キブラ、=メッカの方向)を示す壁のくぼみ(壁龕〈へきがん〉)です。半円形のニッチ状になっていることが多く、装飾が施されている場合もあります。
- アザーン(Adhan): 1日5回の礼拝の時間を知らせる呼びかけのことです。かつてはモスクに付属する**ミナレット(尖塔)**の上から肉声で行われました。
- ミナレット(Minaret): モスクに付随して建てられる塔状の建造物です。本来は前述のアザーンを高い場所から周囲に響かせるための塔でした。
- キブラ(Qibla): ムスリムが礼拝する際に向く方向のことです。世界中どこにいても方角としては**サウジアラビアのメッカ(聖地カアバ神殿)**の方向を指します。モスクでは礼拝室が必ずこのキブラの方向を向くように配置され、室内にもキブラを示すマークや装飾(先述のミフラーブなど)があります。
- イマーム(Imam): モスクで礼拝を主導する人のことを指します。地域コミュニティから選ばれた代表者が務めることも多く、日常的には信仰の先輩・兄貴分のような立場です。金曜礼拝の説教(フットバ)を行ったり、生活相談を受けたりと、コミュニティの精神的支柱となる存在です。