地鎮祭や選挙の必勝祈願など、土地の安定や工事の安全、勝利成就を願って神主を招き、神に祈るという文化は、いまでも日本社会に深く根付いています。
今回は「地鎮祭」と、日本古来の信仰である「神道」との関係についてご紹介します。
地鎮祭(じちんさい)は、建物を建てる前にその土地の神を鎮め、工事の安全を祈願する神道の儀式です。
現代では「工事の無事を願う儀式」として認識されがちですが、その本質はもっと古い、日本人の自然観に根ざしています。
古来、日本人は自然のあらゆるものに神が宿ると考えてきました。山、川、木、岩、そして土地そのものに「霊」がある──これがアニミズム的世界観です。
地鎮祭の根底には、「その土地にはすでに神がいて、人間はそこに手を加える際にあいさつと許しを請うべきだ」という精神があります。
古典の中にも、土地や土を司る神々が登場します。代表的なものをいくつかご紹介します:
これらの神々はいずれも、「地を整える」「土地の霊を鎮める」という行為と深く関係しています。
祭事も合理化がすすみ上棟式をやる現場も少なくなったように思われます。しかし地鎮祭は必ずやるか、少なくとも簡略化して行う傾向があるのではないでしょうか。
設計事務所として地鎮祭に立ち会うたび、私たちは思います。建築とは単に構造物を建てることではなく、人と場所と自然とを調和させる行為であると。
地鎮祭はその第一歩。土地にことわりを立て、敬意を示す──この姿勢こそが、日本建築に受け継がれてきた精神性の一つではないでしょうか。
地鎮祭は単なる形式的な儀式ではなく、古くからの自然観や神観と結びついた、日本固有の祈りのかたちです。
建築に携わる私たちにとっても、土地との対話の一環として、今後も大切にしていきたい文化といえるでしょう。